直接還元鉄(Direct Reduced Iron:DRI)は、鉄鉱石を高炉ではなく還元ガスを用いて直接還元する製鉄原料であり、近年、環境負荷の低い製鉄プロセスとして世界的に注目を集めています。特に日本では、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進む中で、DRI 市場の重要性が急速に高まっています。

直接還元鉄は、主に天然ガスや水素を使用して鉄鉱石を還元することで製造されます。従来の高炉法と比較して、二酸化炭素排出量を抑えられる点が大きな特徴です。そのため、環境規制が強化される中、持続可能な鉄鋼生産を支える原料として需要が拡大しています。
世界の直接還元鉄市場は、2023年に500億米ドル以上の規模に達し、2032年にかけて1,000億米ドルを超える市場へと成長すると予測されています。予測期間中の年平均成長率は約9%とされ、鉄鋼・建設・自動車産業の成長が市場拡大を後押ししています。
日本の鉄鋼業界は、長年にわたり高炉を中心とした生産体制を維持してきましたが、近年では温室効果ガス削減を目的とした技術転換が進んでいます。その中で、DRI は次世代製鉄プロセスの中核材料として位置付けられています。
日本市場では、電気アーク炉(EAF)を活用した製鋼プロセスとの相性の良さから、DRI の需要が着実に増加しています。今後も、国内鉄鋼メーカーによる設備投資や技術開発が進むことで、市場は安定した成長を続けると見込まれています。
日本政府および鉄鋼業界は、カーボンニュートラル実現に向けた目標を掲げています。DRI は、従来製法と比較して二酸化炭素排出量を大幅に削減できるため、環境対応型製鉄の重要な選択肢となっています。
水素を用いた直接還元技術の研究開発が進展しており、将来的にはさらなる環境負荷低減が期待されています。これにより、DRI の利用範囲が拡大し、市場成長を後押ししています。
自動車、建設、インフラ分野において高品質かつ安定供給が可能な鋼材への需要が増加しています。DRI は不純物が少なく、製鋼品質を向上させる点でも評価されています。
一方で、直接還元鉄市場にはいくつかの課題も存在します。DRI 製造設備の初期投資コストが高い点や、エネルギー価格の変動による生産コストの影響が挙げられます。また、安定した原料供給体制の確立も今後の重要な課題となっています。
日本の直接還元鉄(DRI)市場は、環境規制の強化と鉄鋼業界の構造改革を背景に、中長期的に堅調な成長が見込まれています。特に2030年代に向けては、低炭素鋼材への需要増加により、DRI の重要性はさらに高まると予測されます。
持続可能な製鉄プロセスを実現するため、日本の鉄鋼産業において DRI は今後も不可欠な役割を担い、市場規模の拡大が続くと考えられます。