なぜあなたのCopilotは「使えないAI」と呼ばれてしまうのか？～DX担当者が陥る3つの壁～

DX推進担当のあなた、はじめまして！
AI戦略ナビゲーターのCRAZYBONEです。

日々、現場と経営層との間で調整に奔走され、Copilot導入プロジェクトを推進されていることと思います。
しかし、現場からは「Copilotは結局、M365の中しか見れず期待外れだ」という厳しい声が上がり、経営層からは「高い費用を払っているのに成果はまだか」というプレッシャーがかかる。
その板挟みの状況、本当にお辛いことでしょう。
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。

ですが、どうかご安心ください。

その悩みは、決してあなただけが抱える特殊な問題ではありません。
実は、多くの企業がCopilot導入でつまずく共通のポイントであり、その根源は、これからお話しする3つの巨大な「壁」に集約されるのです。

まずは、敵の正体を知ることから始めましょう。
この構造を理解し、課題を正しく捉えることが、解決への最初の、そして最も重要な一歩となります。

第1の壁：見えないデータが引き起こす「技術の壁」

現場の従業員の方々がCopilotを「使えないAI」と評価してしまう、最も直接的な原因がこの「技術の壁」です。

ご存知の通り、Copilotは標準機能の状態では、その驚異的な能力をM365、つまりWord、Excel、PowerPoint、Teamsといったアプリケーションの中でしか発揮できません。
しかし、ビジネスの現場で本当に価値のある、血の通ったデータはどこにあるでしょうか。

そうです。

営業部門が日々更新する顧客情報や商談履歴はSalesforceに、生産管理部門が睨めっこしている最新の在庫データはSAPに、そして経理部門が扱う会計情報は独自の基幹システムの中に格納されていますよね。

現場の担当者が、例えば「A社の直近の取引履歴を要約して提案書に盛り込んで」とCopilotに指示したとします。
しかし、肝心の取引履歴がSalesforceにあるため、Copilotは「申し訳ありませんが、その情報にはアクセスできません」と答えるしかありません。
これでは、AIに仕事を任せるどころか、結局自分でSalesforceを開いて情報をコピー＆ペーストする手間が発生し、「かえって仕事が増えたじゃないか！」と不満の声が上がるのも無理はないのです。

第2の壁：効果を語れない「ROIの壁」

「技術の壁」を乗り越えるためには、Graphコネクタの導入やCopilot Studioでの開発といった、外部システムとの連携が必要になることは、あなたもすでにご存知かもしれません。
しかし、そこで次なる壁が立ちはだかります。
それが、投資対効果、つまりROIを明確に示せないという「ROIの壁」です。

経営会議の場面を想像してみてください。

「Salesforceとの連携開発に、追加で500万円の予算が必要です」
とあなたが提案したとします。

経営層からは、当然こう質問が飛んでくるでしょう。
「その500万円を投資することで、具体的にいくらのリターンがあるのか？
全社的な生産性向上にどう繋がるのか、数字で示してほしい」と。

この問いに対し、「営業担当者の提案書作成が楽になります」といった定性的な説明だけでは、厳しい経営判断を担う役員を納得させることは極めて困難です。
結果として、「費用対効果が不明確なものに、追加投資はできない」と判断され、予算の承認は得られず、「まずはM365の中でできることから始めなさい」と、プロジェクトが停滞してしまうのです。

第3の壁：バラバラな声が阻む「合意形成の壁」

仮に、ROIを見事に算出し、経営層から追加予算の承認を得られたとしましょう。
しかし、安心するのはまだ早いかもしれません。
最後に待ち受けているのが、部門間の利害調整という、最も厄介な「合意形成の壁」です。

「連携するなら、まずは我々営業部門が使っているSalesforceが最優先だ！」

「いや、全社の経費に関わる経理部門のSAP連携こそ、先に着手すべきだ！」

「うちの生産管理システムと連携しないなら、Copilotを導入する意味がない」

このように、各部門からそれぞれの立場に基づいた要望が噴出し、どれを優先すべきか、全社的な合意を形成することができなくなってしまいます。
DX推進担当者であるあなたは、その調整役として板挟みになり、各部門からの非協力的な態度に心を痛め、全社展開のロードマップを描けずに、計画そのものが暗礁に乗り上げてしまうのです。

「M365の壁」を突破する技術的処方箋：Copilot StudioとGraphコネクタの現実的な活用法

前章で Copilot が直面する「技術の壁」についてお話ししましたね。

しかし、ご安心ください。

その壁は決して乗り越えられないものではありません。

Microsoftは、この課題を解決するための強力な武器をちゃんと用意してくれています。

それが「Copilot Studio」と「Graphコネクタ」です。

ここでは、SalesforceやSAPといった基幹システムと連携させるための具体的な技術の概要と、多くの方が気にされる現実的な開発工数・コスト感について、専門用語をできるだけ避けながら、分かりやすく解説していきますね。

Copilotに新しいスキルを教える家庭教師：Copilot Studio

まずご紹介するのが「Copilot Studio」です。

これを一言で例えるなら、「Copilot専用の家庭教師」のようなものです。

標準状態のCopilotはM365のことしか知りませんが、この家庭教師（Copilot Studio）を通じて、「Salesforceのデータはこうやって見るんだよ」「うちの会社の経費精算システムとは、こうやって会話するんだよ」と、新しい知識やスキルを教え込むことができるのです。

これにより、例えば以下のようなことが可能になります。

Teamsのチャットで「A社の担当者情報を教えて」と聞くと、CopilotがSalesforceから情報を取ってきてくれる。
「最新の在庫状況を反映した報告書を作って」と指示すると、CopilotがSAPのデータを参照してくれる。

【現実的な開発工数・コスト感】

「開発」と聞くと、なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんね。

しかし、Copilot Studioの大きな特徴は、専門的なプログラミング知識が少なくても開発できる「ローコード」という思想で作られている点です。

パワーポイントで図形を組み合わせるような感覚で、対話の流れを作っていくことができます。

もちろん、外部システムと接続する部分（API連携）など、少し専門的な知識が必要になる場面もありますが、ゼロからプログラムを書くよりはるかに短い期間で開発が可能です。

コスト面では、Copilot Studioを利用するための追加ライセンスが必要になる場合があります。

まずは特定の業務、例えば「営業部門の顧客情報問い合わせ」といった小さな範囲から始めて、効果を検証しながら広げていくのが現実的で賢い進め方と言えるでしょう。

Copilotの検索範囲を広げる魔法のチケット：Graphコネクタ

次にご紹介する「Graphコネクタ」は、「外部システムのデータを、M365の世界に招待するための魔法のチケット」とイメージしてみてください。

このチケットを使うと、SalesforceやSAPの中にあるデータを、あたかも最初からSharePoint上に保存されていたファイルであるかのように、Copilotが検索・参照できるようになります。

Copilot Studioが「Copilotに特定のスキル（対話能力）を教える」ものだとすれば、Graphコネクタは「Copilotが参照できる知識（データ）の範囲そのものを広げる」ためのものです。

ユーザーは特別な使い方を意識する必要はありません。

いつものようにCopilotに質問するだけで、M365内のデータと、Graphコネクタで接続された外部システムのデータを横断して、最適な答えを探し出してくれます。

【現実的な開発工数・コスト感】

Graphコネクタには、Microsoft自身が提供しているものや、外部の専門企業が開発・販売しているものが数多く存在します。

もしお使いのシステム（例えばSalesforce）に対応したコネクタが既に提供されていれば、比較的簡単な設定作業だけで導入できる場合も多く、開発工数を大きく抑えることが可能です。

もし対応するコネクタがない場合でも、独自に開発することもできますが、こちらはCopilot Studioよりも専門的な技術知識が求められます。

コストは、利用するデータの量などに応じて変動するライセンス体系が一般的です。

まずは、お使いの基幹システムに対応したコネクタが既に提供されていないか調べてみることが、解決への一番の近道になりますよ。

経営会議で一発OK！投資対効果（ROI）を明確に示し、予算を獲得する実践フレームワーク

外部システムと連携するための技術的な武器についてはご理解いただけたかと思います。

しかし、どんなに強力な武器も、それを手に入れるための予算がなければ絵に描いた餅ですよね。

「連携開発の費用対効果が算出できない」
この「ROIの壁」こそ、多くのDX推進担当者が直面する、プロジェクト推進における最大の障壁と言っても過言ではありません。

経営層は、感覚的な「便利になります」という言葉では動きません。

彼らが求めるのは、投資に対するリターンが明確に示された、客観的で論理的な「数字」です。

ご安心ください。

本章では、私が数々の現場で実践し、成果を上げてきた「AI導入ROI算出フレームワーク」を、あなただけに特別にお教えします。

この手法を学べば、提案書作成時間の削減といった具体的な業務改善を説得力のある金額に換算し、自信を持って経営会議に臨めるようになりますよ。

Step1：削減できる「時間」を見える化する

まず最初に取り組むべきは、感覚的な「楽になる」を、具体的な「時間」という単位に置き換えることです。

例えば、営業部門のSalesforce連携を例に考えてみましょう。

Copilotと連携することで、営業担当者のどんな作業時間が削減できるでしょうか？

提案書作成のために、Teamsの議事録、過去の提案書（Word）、Excelの見積もり、そしてSalesforceの顧客情報をそれぞれ開いて確認する時間。
あちこちから集めてきた情報を、コピー＆ペーストして提案書にまとめる時間。
会議の後、Salesforceに商談内容を記録する時間。

これらの作業に、一人の担当者が一日あたり、いったい何分費やしているでしょうか？
まずは現場の数名にヒアリングを行い、平均的な時間を算出してみましょう。
「一人あたり一日平均30分」といった具体的な数値目標を立てることが、全ての計算のスタートラインになります。

Step2：削減した「時間」を「金額」に換算する

次が最も重要なステップです。
Step1で算出した「時間」を、経営層が理解できる「金額」へと換算します。

計算式は非常にシンプルです。

年間の削減コスト = 1日あたりの削減時間 × 営業日数 × 対象人数 × 平均時給

ここでポイントとなるのが「平均時給」です。
これは、対象となる従業員の給与だけでなく、社会保険料などの会社負担分も含めた「人件費」で考えるのが一般的です。
経理部門に相談すれば、おおよ所の数値を教えてもらえるはずですよ。

例えば、以下のように設定してみましょう。

1日あたりの削減時間：0.5時間（30分）
年間営業日数：240日
対象人数：20名
平均時給（人件費ベース）：4,000円

これを先ほどの式に当てはめてみると…。

0.5時間 × 240日 × 20名 × 4,000円 = 960万円

どうでしょうか？
「年間で960万円ものコスト削減効果が見込めます」と具体的な数字で示すことができれば、経営層の聞く耳も大きく変わってくるはずです。

Step3：投資額と比較して「ROI」を証明する

最後は、算出された削減コストと、連携開発に必要な投資額を比較し、ROI（投資対効果）を明確に示します。

投資額には、Copilot StudioやGraphコネクタの開発委託費（仮に500万円とします）だけでなく、追加で必要となるライセンス費用や、年間の運用保守費用なども含めて計算すると、より精度が高まります。

仮に、初年度の総投資額が600万円だったとしましょう。

ROI(%) = (年間の削減コスト - 総投資額) ÷ 総投資額 × 100

(960万円 - 600万円) ÷ 600万円 × 100 = 60%

「本プロジェクトは、初年度でROI 60%を達成できる見込みです。」

ここまで具体的な根拠を持って説明できれば、もはや誰も「費用対効果が不明確だ」とは言えなくなるでしょう。
自信を持って、追加予算の承認を勝ち取ることができます。

バラバラな要望を「全体最適」へ導く！TOC思考で描く、全社合意の連携ロードマップ

あなたは、技術的な実現性が見え、投資対効果（ROI）という強力な武器も手にされましたね。

これでようやくプロジェクトが本格的に走り出す…と思いきや、最後に待ち受けているのが、部門間の利害調整という、ある意味で最も人間的で厄介な「合意形成の壁」です。

「営業部門のSalesforceが最優先だ！」
「いや、全社の基盤である経理のSAPから着手すべきだ！」

こうした各部門からの声は、どれもそれぞれの立場から見れば「正論」です。
だからこそ、調整は困難を極め、あなたは板挟みになって疲弊してしまいます。

しかし、ご安心ください。

この一見、混沌として見える状況を整理し、誰もが納得する一本の道筋を描き出すための、強力な思考ツールが存在します。

それが、私の専門分野でもある「TOC（Theory of Constraints：制約理論）」です。
本章では、このTOCの考え方を応用し、バラバラな要望を「全体最適」へと導くロードマップ策定術を、分かりやすく伝授しますね。

なぜ「部分最適」のワナに陥ってしまうのか？

そもそも、なぜ各部門の要望は食い違ってしまうのでしょうか？

それは、それぞれの部門が自分たちの業務効率を最大化しようとする「部分最適」を目指しているからです。
もちろん、それは決して悪いことではありません。

しかし、会社という一つの大きな船で考えたとき、漕ぎ手である各部門がバラバラの方向に力いっぱいオールを漕いでいたら、船は前に進むどころか、その場でグルグル回ってしまうだけですよね。

今、あなたに求められているのは、特定の部門の要望に応えることではなく、会社という船全体が、最も速く目的地に着くための舵取りをすることなのです。

会社の成長を縛る「たった一つの鎖」を見つけ出すTOC思考

では、どうすれば全体が最も良くなる一点を見つけ出せるのでしょうか。
そこで登場するのがTOCです。

TOCには、こんな有名な言葉があります。
「鎖の強さは、その最も弱い輪によって決まる」

どんなに他の輪が頑丈でも、たった一つの弱い輪が全体の強度を決めてしまう、ということです。
会社の業務プロセスも、この「鎖」と全く同じです。
会社全体のパフォーマンス（例えば、利益を生み出すスピード）は、全体のプロセスの中で「最もパフォーマンスが低い部分」によって制限されてしまっています。
この最も弱い輪のことを、TOCでは「ボトルネック」あるいは「制約条件」と呼びます。

もうお分かりですね。

Copilotという強力なツールを最初に投入すべきは、まさにこの「ボトルネック」となっている業務プロセスなのです。

TOC思考で描く！

3ステップ連携ロードマップ策定術

難しく考える必要はありません。
以下の3つのステップで、誰が見ても納得できるロードマップを描いていきましょう。

ステップ1：会社の「共通のゴール」を再確認する

まず、各部門の担当者を集めた場で、全員の目線を合わせます。

「私たちの共通のゴールは、営業部の効率化でも、経理部の効率化でもありませんよね。会社の利益を最大化し、事業を成長させることが、私たち全員のゴールです」

この当たり前のようで忘れがちな大原則を、最初に全員で確認することが極めて重要です。

ステップ2：会社の「ボトルネック」はどこか特定する

次に、その共通のゴール達成を、今、最も妨げている業務プロセスは何かを議論します。

例えば、以下のような問いを投げかけてみましょう。

「新規顧客への提案から受注までのリードタイムが、競合他社より長くなっていないか？」（ボトルネックは営業プロセスかも？）
「月末の請求書発行の遅れが原因で、キャッシュフローが悪化していないか？」（ボトルネックは経理プロセスかも？）
「製品の納期遅延が頻発し、顧客満足度が低下していないか？」（ボトルネックは生産管理プロセスかも？）

各部門の「〇〇と連携したい」という要望の裏にある、「なぜなら、〇〇が今のビジネスの足かせになっているからだ」という根本原因を掘り起こすのです。
すると、これまで見えなかった会社全体の課題、つまり「最も弱い鎖の輪」が浮かび上がってきます。

ステップ3：「ボトルネック解消」を最優先としたロードマップを提示する

ボトルネックが特定できれば、あとは簡単です。

「議論の結果、現在、私たちの事業成長の最大のボトルネックは『新規顧客への提案スピードの遅さ』にあることが分かりました。
そこで、第1フェーズでは、このボトルネックを解消するために最も効果的な、営業部門のSalesforce連携に投資を集中させます。
これにより会社全体の利益創出スピードが上がれば、その果実をもって、第2フェーズで経理部門のSAP連携に着手しましょう」

このように説明すれば、もはや部門間の感情的な対立は起こりません。
これは営業部門をえこひいきしているのではなく、会社全体のパフォーマンスを最大化するための、最も論理的で合理的な判断だからです。

このTOCのフレームワークを使えば、あなたは単なる調整役ではなく、全社的な視点から事業成長をデザインする「戦略家」として、各部門から信頼と協力を得ることができるようになりますよ。

「塩漬け」からの脱却！現場の「期待外れ」を「熱狂」に変える利用定着化の仕掛け

本当にお疲れ様です！

技術、ROI、そして合意形成という3つの大きな壁を乗り越えても、まだ安心はできません。

むしろ、ここからが本当のスタートラインです。

せっかく導入したCopilotが、現場で使われずに「塩漬け」になってしまう。

高額なライセンス費用だけが虚しく計上されていく…。

考えただけでも、胃が痛くなりますよね。

現場の「期待外れ」という冷ややかな声を、どうすれば「これはすごい！」「手放せない！」という熱狂に変えられるのでしょうか？

大丈夫です。

そのためには、緻密に計算された「仕掛け」が必要なのです。

本章では、投資を無駄にしないための、利用定着化の秘訣をお伝えしますね！

魔法の言葉は「自由に使って」ではなく「これ、便利でしょ？」

多くの導入プロジェクトが陥りがちなワナは、「さあ、便利なツールを用意しました。皆さん、自由に使って生産性を上げてください！」と、現場に丸投げしてしまうことです。

人は、新しいことを学ぶのにエネルギーが必要です。

今のやり方で困っていなければ、なかなか重い腰を上げません。

だからこそ、大切なのは、現場が「これは便利だ！」と直感的に実感できる「小さな成功体験（スモールウィン）」を、あなたの方で意図的に設計し、まるでプレゼントのように提供してあげることなのです。

いきなり大きな業務改革を目指す必要はありません。

まずは、誰もが面倒だと感じている、ほんの些細な業務からで良いのです。

例えば、営業部門であれば、こんなスモールウィンを設計してみてはいかがでしょうか？

「【コピペでOK】10分かかっていた議事録からのタスク抽出が、たった30秒で終わる魔法のプロンプト集」
「Salesforce連携記念！『A社の最近の動向をまとめて』と入力するだけで、商談準備の半分が終わる感動体験会」

このように、具体的で、すぐに効果がわかり、誰でも真似できる成功体験を一つでも味わってもらえれば、「Copilotって、意外と使えるかも？」というポジティブな空気が生まれ始めます。

「機能説明会」を「業務改善ワークショップ」に変えよう

Copilotの利用定着を目的とした研修は、決して「機能説明会」にしてはいけません。

「Wordではこんなことができます」「Excelではこんな機能が…」と説明されても、ほとんどの人は「へぇ、すごいね」で終わってしまい、自分の業務にどう活かせるかイメージできないからです。

そうではなく、各部署の日常業務に深く寄り添った「業務改善ワークショップ」という形に切り替えましょう。

参加者に「今、一番時間を取られている、面倒な定型作業は何ですか？」と問いかけ、その場でCopilotを使って解決するライブデモンストレーションを行う。
経理部向けには「請求書データに関する問い合わせ対応」、企画部向けには「競合調査レポートの骨子作成」など、部署ごとに特化したテーマを設定し、より自分事として捉えてもらう。

「教える」のではなく、「一緒に悩みを解決する」スタンスが、現場の心を動かす鍵となります。

成功の火を燃え広がらせる「伝道師」を育てよう

あなたがたった一人で、全社員の利用を促進するのは物理的にも精神的にも限界があります。

そこで、各部署にCopilotの活用に積極的なキーパーソンを見つけ、「Copilotアンバサダー」として公式に任命し、仲間になってもらうのです。

このアンバサダーには、新しい活用法をいち早く試してもらったり、部署内での小さな成功事例を集めてもらったりする役割を担ってもらいます。

そして、彼らが見つけた成功事例を、社内チャットや朝礼といった場で積極的に共有してもらうのです。

「〇〇部の△△さんが、Copilotを使ったら提案書の作成時間が半分になったらしいぞ！」

こうした現場からのリアルな口コミは、あなたが発信するどんなメッセージよりも、何倍も強力な推進力になります。

小さな成功の火種を、アンバサダーという「伝道師」を通じて、全社へと燃え広がらせていく。

この仕掛けこそが、利用率を劇的に向上させるための、最も効果的な戦略なのです。

板挟みのプレッシャーから解放されるために：明日から始める課題解決の第一歩

ここまで本当にお疲れ様でした。

Copilotが直面する3つの壁を理解し、それを乗り越えるための技術、ROI算出、合意形成、そして利用定着化の具体的な手法まで、多くの情報に触れてこられたことと思います。

しかし、どんなに優れた地図を手に入れても、最初の一歩を踏み出さなければ、景色は決して変わりません。

「やるべきことは分かった。でも、どこから手をつければいいんだ…」

現場と経営の板挟みになり、心身ともにプレッシャーを感じている今の状況では、そう感じてしまうのも当然のことです。

ですから、どうか一人で全てを背負い込まないでください。

この最後の章では、あなたが明日からすぐに、たった一人でも始められる具体的なアクションプランを3つ、ご提案します。

大きなプロジェクトを動かす前の、小さな、しかし最も重要な助走です。

この最初のステップが、あなたの自信を取り戻し、停滞した状況を動かすための確かな推進力になります。

さあ、一緒に踏み出しましょう。

Step1：たった一人でいい、あなたの「共感者」を見つける

まず最初に取り組んでいただきたいのは、PCを閉じて、人のいる場所へ行くことです。

あなたが今、一番話しやすいと感じる、信頼できる部門のキーパーソンは誰でしょうか。

それは、いつも前向きな意見をくれる営業課長かもしれませんし、データに基づいた会話ができる生産管理のリーダーかもしれません。

その方と、お茶でも飲みながら、こう切り出してみてください。

「今、Copilotの全社展開で少し壁にぶつかっていて…。もし、会社全体の売上を上げる上で、一番の足かせになっている業務って、〇〇さんの部署だと何だと思いますか。」

ここでの目的は、解決策を求めることではありません。

第4章で学んだTOC思考、つまり「会社のボトルネックはどこか。」という視点を、あなた以外の誰かと共有し、「共感者」になってもらうことです。

一人で抱え込んでいた悩みを誰かに話すだけで、心は驚くほど軽くなります。

そして、現場のリアルな課題意識に触れることが、次のアクションへの何よりのエネルギー源になるのです。

Step2：誰にも見せない「一行だけのROI試算」をしてみる

次に、自分のデスクに戻って、Excelを立ち上げてみましょう。

ただし、これは経営会議に見せるための立派な資料ではありません。
あなたが自信を取り戻すための、いわば「お守り」のようなものです。

Step1で話したキーパーソンから聞いた「足かせになっている業務」
仮にそれが「提案前の情報収集に時間がかかりすぎている」ことだったとしましょう。

第3章のフレームワークを思い出して、たった一行だけでいいので、計算してみてください。

「もし、あの課長とその部下5人の情報収集時間が、毎日15分だけ削減できたら…」

0.25時間 × 240日 × 6人 × 4,000円 = 144万円

この「144万円」という数字が、今のあなたにとっての希望の光です。

完璧でなくても構いません。

この「課題を金額に換算する」という小さな成功体験が、「自分はプロジェクトを前に進める力を持っているんだ」という確信を少しずつ育ててくれます。

Step3：「魔法のプロンプト」をそっとプレゼントする

最後に、システム連携のような大きな話ではなく、今すぐできることで、あなたの「共感者」に小さな感動をプレゼントしましょう。

第5章でお話しした「スモールウィン」の設計です。

例えば、Step1で協力してくれた営業課長が、いつも会議後に議事録をまとめるのに苦労しているとします。

TeamsのCopilotで使える、こんなプロンプトをチャットでそっと送ってあげるのです。

「お疲れ様です！この前の会議の議事録、このプロンプトをCopilotに貼り付けるだけで、要点とToDoリストが一瞬で出てきますよ。よかったら試してみてください。」

相手はきっと驚くでしょう。

「え、こんなに便利だったの。」

この小さな「ありがとう」が、あなたの孤独な戦いに、強力な味方をもたらしてくれます。

そして、この人を起点として、Copilotの価値が草の根レベルで広がっていくのです。