1. はじめに：Copilot導入の“最後の壁”、法務・経営層の説得を生成AIで突破する

こんにちは！
AI戦略ナビゲーターのCRAZYBONEです。

「M365 Copilotを導入すれば、全社の生産性は劇的に向上するはずだ！」
そんな大きな期待を胸にプロジェクトを推進しているにもかかわらず、思わぬ「壁」にぶつかってはいませんか？

その壁とは、法務部門や経営層から突きつけられる「データは本当に国内から出ないのか？」「海外の法律に抵触するリスクはないのか？」といった、データガバナンスに関する鋭い問いかけではないでしょうか。

Microsoftが提供する膨大な公式ドキュメントと日夜格闘し、関係各所との調整に奔走する毎日。
承認プロセスは遅々として進まず、プロジェクト停滞の責任者として感じるプレッシャーは、計り知れないものとお察しします。

しかし、どうかご安心ください。
その厚く、高い壁を打ち破るための強力な味方が、実はあなたのすぐそばにいます。
それは、あなたがまさに導入しようとしているCopilotと同じ、「生成AI」そのものなのです。

本記事では、この厄介で複雑な承認プロセスという課題を解決するために、生成AIをあなたの「戦略的アシスタント」として活用する、全く新しいアプローチをご提案します。
法務・経営層が求める専門的な資料を驚くほど効率的に作成し、彼らが「これなら判が押せる」と納得する説明責任を果たすための、具体的で実践的な方法を、これから一緒に見ていきましょう！

2. なぜあなたの説明は伝わらない？データ越境リスクにおける“懸念の正体”を構造化する

「Microsoftの公式ドキュメントには、このように記載されています」
「技術的にはデータはセキュアに保護されています」

あなたが熱心に、そして誠実に説明すればするほど、なぜか法務部門や経営層の表情は曇っていく。
そんなもどかしい経験をされていませんか？

その根本的な原因は、あなたと彼らが見ている「リスクの景色」が全く異なることにあります。
例えるなら、あなたは「最新鋭のエンジンの性能」を説明しているのに、彼らは「事故が起きた時の保険」や「リコールになった場合の会社の損失」について知りたがっている、そんな状況なのです。

少し具体的に、それぞれの立場から見た「懸念の正体」を分解してみましょう。

あなたの視点：DX推進担当者

関心事：技術的な実現可能性、Microsoftの公式見解、機能の仕様（事実）
使っている言語：「この機能を使えば、データはテナント境界内で処理されます」

法務・コンプライアンス部門の視点

関心事：法的責任の所在、契約・法規制との整合性、判例の有無（解釈）
使っている言語：「その『テナント境界内』という定義は、日本の個人情報保護法やGDPRの『域外移転の禁止』規定をクリアする根拠として十分ですか？万が一の際の免責事項はどこに書かれていますか？」

経営層の視点

関心事：事業継続性、ブランドイメージ毀損リスク、投資対効果（経営判断）
使っている言語：「万が一、海外でデータが閲覧されたという報道が出た場合、当社の株価や顧客からの信頼にどれだけの影響が出ますか？そのリスクを上回るリターンは確実にあるのですか？」

お分かりでしょうか？
あなたが一生懸命に「事実」を語っても、相手は「解釈」と「万が一の影響」という全く別のフィルターを通してあなたの話を聞いています。
この「リスク認識のズレ」こそが、コミュニケーションの壁を生み出し、あなたの説明がどんなに正しくても「伝わらない」最大の要因なのです。

ですから、私たちが次に取るべきアプローチは、技術仕様をさらに詳しく説明し続けることではありません。
相手の土俵に上がり、彼らの言語で「懸念」を一つひとつ解消していくための「証拠資料」を揃えることなのです。

では、どうすればその「証拠資料」を、膨大な情報の中から効率的に集め、作成できるのでしょうか？
次章からいよいよ、生成AIをあなたの最強アシスタントに変える、具体的なテクニックに入っていきましょう。

3. 生成AIアシスタント爆誕！膨大な公式ドキュメントを“10分で読破”する超効率情報収集術

前章で、法務部門や経営層との「リスク認識のズレ」を埋めるには、彼らの言語で書かれた「証拠資料」が必要不可欠であることをお伝えしました。
しかし、その証拠は一体どこにあるのでしょうか。
答えは、あなたがこれまで何度も目にしてきたであろう、Microsoftが提供する公式ドキュメントの中にあります。
Microsoft Trust Center、Microsoft Learn、無数のホワイトペーパー…。
これらはまさに情報の「宝の山」ですが、同時にあまりに広大で複雑な「迷宮」でもあります。

「必要な情報がどこにあるか分からない」
「英語の長文ドキュメントを読むだけで一日が終わってしまう」
「技術用語と法律用語が入り混じっていて、正確な解釈に自信が持てない」
こんな風に途方に暮れてしまうお気持ち、痛いほどよく分かります。

ですが、もう一人でこの迷宮をさまよう必要はありません。
今日から、あなた専用の超優秀なアシスタントが、この情報収集の旅をナビゲートしてくれます。
それが「生成AIアシスタント」です。

CopilotやChatGPTのような生成AIに、これからお伝えする「魔法の質問」を投げかけるだけで、膨大なドキュメントの中から必要な情報だけをピンポイントで引き出し、あなたのためのレポートを作成させることが可能になります。
その核心となるのが、プロンプトエンジニアリングの3つの基本要素です。

ステップ1：AIに「役割」を与える

まず、AIに「あなたは誰なのか」を教えてあげましょう。
漠然と質問するのではなく、専門家としての役割を与えることで、回答の精度が劇的に向上します。

（プロンプト例）

あなたは、日本の大手製造業の法務部門に所属する、
データプライバシー法に精通した弁護士です。
これから、
M365 Copilot導入に関するMicrosoftの公式ドキュメントについて質問しますので、
法的なリスクの観点から、慎重かつ的確な回答をしてください。

ステップ2：AIに「背景」を教える

次に、あなたが今どのような状況に置かれているのか、具体的な「背景（コンテキスト）」を伝えます。
これにより、AIはあなたの意図を深く理解し、より文脈に沿った回答を生成してくれます。

（プロンプト例）

【背景】
私たちの会社では、M365 Copilotの全社導入を検討しています。
しかし、法務部門から「Copilotに入力したプロンプトや社内データが、
意図せず国外のデータセンターで処理されるリスクはないか」
という強い懸念が示されています。
特に、顧客データに関する国内管理の原則を遵守できるかが最大の論点です。

ステップ3：AIに「具体的な作業」を依頼する

役割と背景を理解させた上で、いよいよ具体的な「作業（タスク）」を依頼します。
ここでのポイントは、「何をしてほしいのか」を明確に、一つひとつ分解して指示することです。

タスク例①：長文ドキュメントの「要約」

URLを渡して、重要なポイントをまとめさせます。

（プロンプト例）

以下のURLにあるMicrosoftの技術文書を読み、
上記の【背景】で示した法務部門の懸念点に関連する箇所をすべて抜き出し、
日本語で500字以内に要約してください。
URL: [ここにMicrosoftのドキュメントURLを貼り付け]

タスク例②：特定の情報の「抽出」

ドキュメント全体から、特定のキーワードに関する記述だけを探し出させます。

（プロンプト例）

以下のドキュメントの中から、
「データ所在地」
「Data Residency」
「越境データ転送」
「Cross-Border Data Transfer」
に関する記述をすべて引用し、それぞれが何を意味しているのかを
簡潔に解説してください。
URL: [ここにMicrosoftのドキュメントURLを貼り付け]

タスク例③：専門用語の「翻訳と解説」

難解な専門用語を、非技術者にも分かるように平易な言葉で説明させます。

（プロンプト例）

Microsoftのドキュメントに出てくる「Semantic Index for Copilot」という用語について、
これがデータプライバシーやデータガバナンスにどのように関わるのか
という観点から、ITに詳しくない法務部長にも理解できるように説明してください。
比喩を交えると助かります。

いかがでしょうか。
これまであなたが何時間も、あるいは何日もかけて行っていた情報収集と読解の作業が、これらのプロンプトを使えば、わずか数分から十数分で完了するのです。
あなたはもう、情報の「探索者」である必要はありません。
生成AIが集めてきた質の高い情報を元に、戦略を練り、人々を説得する「司令塔」としての役割に集中することができるのです。

4. “これなら判が押せる”と言わせる！法務が求める説得資料を生成AIと共創する

前章では、生成AIを駆使して、広大な情報の海から必要な情報をピンポイントで釣り上げる方法を学びましたね。

これで、あなたの手元には、法務部門や経営層を説得するための「原材料」が揃った状態です。

しかし、釣ってきたばかりの魚をそのまま食卓に出す人はいませんよね。

彼らが求めているのは、美しく盛り付けられ、誰もが安心して食べられる「料理」、つまり、彼らの言語と論理で構成された「説得資料」なのです。

「データ処理の具体的なフロー図を示してほしい」

「準拠法規を一覧にしてほしい」

「リスクと対策を対比させた表がなければ、検討の土台にすら乗らない」

担当者として最も頭を悩ませる、これらの専門的な要求。

これをゼロから作るのは、まさに至難の業です。

ですが、心配は無用です。

ここでも、あなたの「生成AIアシスタント」が最高の副料理長として腕を振るってくれます。

集めた情報をインプットとして、AIに具体的な資料の「骨子」を作成させる実践的なステップを、プロンプト例と共にご紹介します。

ステップ1：全体像を可視化する「データ処理フロー図」の草案を作成する

法務部門がフロー図を求めるのは、文章だけでは分かりにくいデータの流れを直感的に理解し、「どこに」「どのようなリスクが」潜んでいるかを特定したいからです。

ここで生成AIに依頼するのは、Mermaid記法のようなテキストベースで図を描画できる形式での出力です。

（プロンプト例）

あなたは、クラウドサービスのデータ処理フロー設計を専門とするITアーキテクトです。

【背景】
M365 Copilotのデータ処理プロセスについて、法務部門に説明する必要があります。
特に、ユーザーがプロンプトを入力してから、Copilotが応答を生成し、
そのデータがどこで処理・保存されるのかという一連の流れを、
視覚的に分かりやすく示す必要があります。

【インプット情報】
[ここに、前章でAIに要約・抽出させたMicrosoftの公式ドキュメントの記述を貼り付け]

【依頼事項】
上記の【インプット情報】を基に、
以下の登場要素を含んだデータ処理フロー図を、
日本語のMermaid記法（シーケンス図）で作成してください。
- ユーザー
- Microsoft 365 Apps (Word, Excel, etc.)
- Microsoft 365 Copilot Service
- Semantic Index for Copilot
- Microsoft Graph
- 大規模言語モデル (LLM)
- Microsoft 365 テナント境界
- Microsoft Azure OpenAI Service

このプロンプトを実行すれば、複雑なデータの流れが一目瞭然となるフロー図の「コード」が生成されます。

あとは、そのコードを対応するビューアに貼り付けるだけで、説得力のある図の完成です。

ステップ2：法的正当性を示す「準拠法規リスト」を作成する

次に、法務部門が最も重視する「この仕組みは、どの法律のどの条項をクリアしているのか？
」という問いに答えるための資料です。

（プロンプト例）

あなたは、GDPRや日本の個人情報保護法に精通した法務コンサルタントです。

【背景】
M365 Copilot導入にあたり、データ越境のリスクが懸念されています。
Microsoftが提供するデータ保護の仕組みが、
関連法規に準拠していることを示す必要があります。

【インプット情報】
[ここに、Microsoft Trust Centerのデータ所在地やコンプライアンスに関する記述を貼り付け]

【依頼事項】
上記の【インプット情報】を参考に、
M365 Copilotのデータ処理が、以下の法規制のどの要件を満たす可能性があるかを分析し、
表形式でまとめてください。
表の項目は
「法規制名」
「関連する要件（例：域外移転の十分性認定）」
「Microsoftの対応策」
「参照ドキュメント箇所」
とします。

対象法規制：
- 日本の個人情報保護法
- GDPR（EU一般データ保護規則）

このリストがあれば、「我々は感覚で安全だと言っているのではなく、法的な要件と照らし合わせて一つひとつ確認しています」という、あなたの誠実で論理的な姿勢を明確に示すことができます。

ステップ3：懸念を先回りして払拭する「リスクと対策の一覧表」を作成する

最後に、彼らが抱くであろう不安をすべて事前に洗い出し、それぞれに具体的な対策を紐付けた一覧表を作成します。

これは、あなたのリスク管理能力を示す上で、極めて重要な資料となります。

（プロンプト例）

あなたは、ITプロジェクトのリスクマネジメントを専門とするコンサルタントです。

【背景】
M365 Copilot導入プロジェクトの承認を得るため、
想定されるデータガバナンス上のリスクと、
それに対する対策を網羅的に整理した資料を作成しています。

【インプット情報】
[ここまでに作成したフロー図や準拠法規リストに関する情報を貼り付け]

【依頼事項】
M365 Copilotを導入する際に想定される、
データプライバシーやセキュリティに関するリスクを5つ洗い出してください。
そして、それぞれのリスクに対して、
「技術的対策（Microsoftが提供）」
「契約的対策（利用規約など）」
「運用的対策（社内ルール）」
の3つの観点から、どのような対策が考えられるかを分析し、
以下の表形式で出力してください。

| 想定されるリスク | 技術的対策 | 契約的対策 | 運用的対策 |
| :--- | :--- | :--- | :--- |

この一覧表が完成すれば、あなたはもはや、法務部門からの指摘に受け身で答えるだけの立場ではありません

リスクを事前に特定し、多角的な対策まで準備している「信頼できるプロジェクト責任者」として、議論の主導権を握ることができるようになるのです。

5. 想定問答集もAIにおまかせ！経営会議や部門説明会で“即答できる”ための最終準備

お疲れ様です。

前章までのステップで、あなたの手元には法務部門や経営層を唸らせる、論理的で美しい説得資料が完成したはずです。

これで準備万端…と、胸を撫で下ろしたいところですが、実は最後にして最大の関門が残っています。

それは、経営会議や部門説明会といった「ライブの舞台」で行われる、鋭い質疑応答です。

どんなに完璧な資料を準備しても、役員やセキュリティ責任者から投げかけられる、
「で、結局のところ、本当に100%安全だと言い切れるのかね？」
「資料は分かったが、万が一訴訟になった場合の責任の所在はどうなっているんだ？」
といった、核心を突く質問に一瞬でも言葉を詰まらせてしまえば、これまでの努力が水泡に帰すことさえあり得ます。

しかし、ご安心ください。

ここでもあなたの「生成AIアシスタント」は、最高のトレーニングパートナーになってくれます。

これから、AIを優秀な「壁打ち相手」として活用し、あらゆる質問に即答できる万全の準備を整える方法をご紹介します。

ステップ1：AIに「厳しい質問者」の役割を与える

まずは、AIにあなたの“対戦相手”になってもらいましょう。

具体的で手強いペルソナを設定することが、質の高い質問を引き出す鍵です。

(プロンプト例)

あなたは、当社の経営会議に出席する、ITには詳しくないものの、
リスク管理に非常に厳しいことで知られるCFO（最高財務責任者）です。
コスト、ブランドイメージの毀損、法的リスクといった観点から、
M365 Copilot導入計画に対して、懐疑的な立場で鋭い質問を投げかけてください。

ステップ2：AIに「あなたの資料」を読み込ませる

次に、これまで作成してきた「あなたの武器」をAIに渡します。

これにより、AIはあなたの説明内容を完全に理解した上で、その弱点や矛盾点を突くような、より実践的な質問を生成できるようになります。

(プロンプト例)

【インプット情報】
これから、私がM365 Copilot導入に関して作成した説明資料の要点を提示します。
この内容を基に、CFOの立場で質問を5つ生成してください。

1.
**データ処理フロー**: ユーザーのプロンプト入力から応答生成までのデータは、
すべて日本のデータセンターを含むMicrosoft 365 テナント境界内で処理される。
2.
**準拠法規**: Microsoftの対応は、日本の個人情報保護法やGDPRの域外移転に関する要件を満たしている。
3.
**リスクと対策**: 想定される情報漏洩リスクに対し、技術的・契約的・運用的対策を準備済み。
[…ここに前章で作成した資料の要点を貼り付け…]

ステップ3：AIと「質疑応答シミュレーション」を繰り返す

いよいよ、実践形式のトレーニング開始です。

AIが生成した質問に対して、まずはあなた自身で回答を考え、それをAIに伝えます。

そして、その回答の骨子をAIにブラッシュアップさせましょう。

(プロンプト例)

【AIからの質問】
「万が一、Microsoft側の設定ミスでデータが国外に流出した場合、
最終的な法的責任はMicrosoftが取るのか、
それとも当社が負うのか？契約書にはどう記載されている？」

【あなたの回答案】
「基本的にはMicrosoftとの契約に基づきますが、
当社のデータ管理責任も問われる可能性があります。」

【依頼事項】
上記の私の回答案は、CFOを納得させるには少し弱いと感じます。
【インプット情報】で提示した内容と、Microsoftの利用規約の一般的な内容を踏まえ、
より説得力のある回答の骨子を3つのポイントで作成してください。

このプロセスを繰り返すことで、あなたは単に回答を暗記するのではなく、「なぜそう言えるのか」という論理的な根拠を深く理解することができます。

AIに「その回答の根拠はどのドキュメントにありますか？
」「もっと簡潔に、1分で説明してください」といった追加の指示を出すことで、回答の精度はさらに磨かれていくでしょう。

このAIとの壁打ちを終えた時、あなたはもはや、ただのプロジェクト担当者ではありません。

データガバナンスに関するあらゆる問いに、自信と根拠を持って即答できる「信頼される専門家」として、経営会議の場に立つことができるのです。

6. 対立から協創へ：生成AIで“Win-Winの着地点”を見出すコミュニケーション戦略

素晴らしい準備が整いましたね。

論理的な資料と、鉄壁の想定問答集。

これさえあれば、どんな反論にも打ち勝つことができるでしょう。

しかし、ここで一度だけ、立ち止まって考えてみてほしいのです。

あなたの本当の目的は、法務部門や経営層を「論破」することでしょうか。

違いますよね。

あなたの真のゴールは、彼らをプロジェクトの「心強いパートナー」に変え、全社一丸となってCopilot導入を成功させ、会社の成長を加速させることのはずです。

この章では、単なる説得を超え、対立を「協創」へと昇華させるための、一歩進んだコミュニケーション戦略をご紹介します。

その鍵を握るのが、私が専門とするTOC（制約理論）の思考法と、あなたの生成AIアシスタントの融合です。

対立の本質を見抜く：TOCの「クラウド」で思考を整理する

現状を整理してみましょう。

あなたの要求：「Copilotを導入し、生産性を向上させたい」（導入推進）
法務部門の要求：「データ越境リスクを回避し、法的問題を未然に防ぎたい」（リスク回避）

この二つの要求は、一見すると完全に矛盾し、対立しているように見えます。

このような状況を、TOCでは「クラウド（対立解消図）」というツールを使って分析します。

難しい理論はさておき、重要なポイントは一つだけです。

それは、「どんな対立にも、その背後には共通の目的が隠れている」ということです。

今回のケースにおける共通の目的は何でしょうか。

それはおそらく、「会社の持続的な成長とコンプライアンス遵守を両立させる」ことでしょう。

つまり、あなたと法務部門は、山の頂上は同じ場所を目指しているのに、登るルートが違うだけなのです。

生成AIで「第三の道」を探す

対立を解消し、Win-Winの着地点を見つけるには、「AかBか」という二者択一から抜け出し、両者の要求を同時に満たす「第三の道」を見つけ出す必要があります。

TOCではこれを「注入（インジェクション）」と呼びます。

この創造的なアイデア出しこそ、生成AIが最も得意とするところです。

AIに、対立の構造をインプットし、解決策のブレインストーミングをさせてみましょう。

（プロンプト例）

あなたは、TOC（制約理論）の思考プロセスに精通した組織変革コンサルタントです。

【対立の構造】
- **共通の目的**: 会社の持続的な成長とコンプライアンス遵守を両立させる。
- **要求A**: DX推進担当は「M365 Copilotを迅速に導入し、生産性を向上させたい」
- **要求B**: 法務部門は「データ越境に関する未知のリスクを完全に排除するため、導入に慎重であるべき
- **対立点**: 「導入する」か「導入しない」かで対立している。

【依頼事項】
この対立を解消し、両者が納得できるWin-Winの解決策（注入）となるような、具体的な「運用ルール」や「代替案」のアイデアを5つ提案してください。
法務部門の懸念を払拭しつつ、DX推進担当の目的も達成できるような、創造的で実践的なアイデアをお願いします。

このプロンプトから、AIは次のような提案を返してくれるかもしれません。

提案1（段階的導入案）：まずは機密情報が最も少ない特定の部署（例：マーケティング部の公開情報担当）に限定してパイロット導入し、データ処理ログを共同で監査するプロセスを確立する。
提案2（データ分類ルール案）：社内データを「極秘」「秘」「社外秘」「公開」の4段階に分類し、Copilotのアクセス権限をこの分類に厳密に連動させる運用ルールを策定する。
提案3（プロンプトガイドライン案）：「個人情報や顧客の機密情報を含むプロンプトの入力を禁止する」といった、全社員向けの明確な利用ガイドラインを作成し、利用前の研修を義務化する。

これらのアイデアは、もはやあなたの「反論」ではありません。

相手の懸念を真正面から受け止め、その上で共に作り上げる「解決策のたたき台」です。

「論破」から「協創」への対話術

これらのAIが生成した代替案を携えて、法務部門との次の会議に臨んでみてください。

しかし、それを一方的に提示してはいけません。

「先日いただいたご懸念は、まさにご指摘の通りだと考えております。

そこで、リスクを管理可能なレベルに抑えつつ、生産性向上のメリットも享受するために、このような運用ルールを設けるのはいかがでしょうか。

ぜひ、法務のプロの視点から、この案をより堅牢なものにするためにお知恵をお貸しいただけないでしょうか。」

このように切り出すことで、議論のテーブルは「対決の場」から「共創の場」へと変わります。

法務部門は、プロジェクトの「障害」ではなく、リスク管理の観点からプロジェクトの品質を高めてくれる、不可欠な「パートナー」へと変貌を遂げるのです。

生成AIが示した道筋を元に、あなたは対立の調停者となり、プロジェクトを真の「全社的な成功」へと導くことができるようになります。

7. 明日から動ける！Copilot導入プロジェクト停滞を打破するファーストステップ

お疲れ様でした！

この記事を通して、生成AIを単なるツールとしてではなく、あなたの強力な「戦略的アシスタント」として活用する具体的なイメージが湧いてきたのではないでしょうか？

理論やテクニックを学んだ今、あなたの心の中にはきっと、「よし、明日から何をしようか？
」という、前向きなエネルギーが満ち溢れていることと思います。

しかし、停滞したプロジェクトという重い扉を再び動かすには、最初の一歩に少しだけ勇気が必要です。

どこから手をつければいいのか、迷ってしまうかもしれません。

ご安心ください。

この最後の章では、これまで学んだすべてを実践に移すための、最も確実で、最も効果的な「最初の一歩」をナビゲートします。

ファーストステップ：生成AIと「協創のためのアジェンダ」を作成する

あなたの次なるアクション。

それは、法務部門やコンプライアンス部門に対して、次の打ち合わせを打診することです。

「えっ、またあの重苦しい会議を？」
と感じましたか？

大丈夫です。

次の会議は、これまでとは全く違うものになります。

なぜなら、あなたが提示する「会議のアジェンダ（議題）」そのものが、これまでの対立構造を打ち破り、「私たちはパートナーです」という強力なメッセージを発信するからです。

さっそく、あなたの生成AIアシスタントに、その特別なアジェンダの草案を作成してもらいましょう。

（プロンプト例）

あなたは、大手企業の組織内コミュニケーションを専門とする、経験豊富なファシリテーターです。

【背景】
これまでM365 Copilot導入プロジェクトにおいて、
DX推進部門と法務部門の間で、データガバナンスのリスク認識にズレがあり、議論が停滞していました。
しかし、これからは対立ではなく「協創」の姿勢で、
共にプロジェクトを成功に導くパートナーとしての関係を築きたいと考えています。

【依頼事項】
法務部門との次回の打ち合わせを正式に依頼するための、
招待メールに記載する「会議アジェンダ（議題）」を作成してください。
以下の要素を含み、相手への敬意と、共に解決策を見出したい
という前向きな姿勢が伝わるような構成にしてください。

1.
**会議の目的**: 「M365 Copilot導入におけるデータガバナンス要件の共同策定」のように、一方的な説明会ではないことを明確にする。
2.
**議題1**: 「先日いただいたご懸念事項の再確認と、当方で準備した技術的・契約的対策資料のご説明」
3.
**議題2**: 「法務部門の専門的知見に基づく、当社独自の『Copilot利用ガイドライン（案）』に関するブレインストーミング」
4.
**議題3**: 「今後のプロジェクト推進における、リスクレビュープロセスの協業体制について」
5.
**結びの言葉**: 法務部門の協力がプロジェクト成功に不可欠であることへの感謝と期待を伝える。

いかがでしょうか。
。
このアジェンダが示すのは、もはや「説得」の場ではありません。

相手の専門性を尊重し、知恵を借りながら、一緒に「会社のルール」を創り上げていこう、という「協創」への真摯な招待状なのです。

このアジェンダ案を携えて、次の会議をセットする。

これが、停滞したプロジェクトの歯車を再び、そして力強く回し始めるための、あなたの「明日から動けるファーストステップ」です。