はじめに：Copilot全社展開の壁、それは「予算」ではなく「合意形成」です

M365 CopilotのPoC（概念実証）の大成功、本当におめでとうございます！

そして、本当にお疲れ様でした。

きっと、参加した社員の方々からは「すごい！」「これなら仕事が劇的に変わる！」といったポジティブな声がたくさん集まったことでしょう。

しかし、その輝かしい成果を手に、いざ全社展開の予算確保へと進んだ途端、高く分厚い壁にぶつかっていませんか？

財務部門からはROI（投資対効果）の具体的な数値を厳しく問われ、IT部門とは予算と責任の押し付け合いになり、事業部門からはコスト負担への反発が聞こえてくる。

経営層は成果を認めつつも、莫大な年間コストを前にどこか及び腰。

「話が前に進まない…」
「自分はただの調整役で、いつの間にか各部門の板挟みになっている…」

鳴り物入りでスタートしたプロジェクトが「PoC倒れ」に終わってしまうかもしれないという焦りと、誰にも相談できないプレッシャーの中で、孤軍奮闘されているのではないでしょうか。

そのお気持ち、痛いほどよく分かります。

ですが、ご安心ください。

その問題の本質は、実は「予算額」そのものではなく、関係者全員の「合意形成」ができていないことにあるのです。

この記事では、あなたが一人で抱え込んでいるその重荷を軽くし、各部門の分厚い壁を突破するための具体的な方法をナビゲートします。

もう大丈夫です。

あなたには、生成AIという最強の「戦略的パートナー」がいます。

さあ、AIと共に、全社を巻き込む次なる一歩を踏み出しましょう！

【生成AI活用術①：対・財務部門】納得を引き出す！「ROI算出シミュレーター」作成の思考法

「生産性向上効果を、具体的な数値で示してください」

財務部門から投げかけられるこの言葉は、本当に重いですよね。

目に見えない「業務効率化」という価値を、どうやって説得力のある「金額」に変換すればいいのか。

Excelと睨めっこしては、前提条件の曖昧さに自信をなくし、また最初からやり直す…その繰り返しに疲弊していませんか？

分かります。

しかし、彼らは決して意地悪で言っているわけではないのです。

会社のお金を管理する立場として、「なぜこの投資が必要なのか」を誰よりも論理的に説明する責任を負っているからです。

ですから、私たちがやるべきことはただ一つ。

彼らが「なるほど、その計算なら合理的だ」と納得できる、客観的で変動可能な「ROI算出シミュレーター」を提示することです。

そして、その最強の武器は、あなたの隣にいる生成AIと一緒に作ることができるのです。

さあ、難攻不落に見えるこの壁を突破するための、具体的な思考法とステップを見ていきましょう。

STEP1：まずは「定性的な効果」をAIとブレストする

いきなり数字から入ろうとすると、必ず行き詰まります。

まずは、Copilotを導入することで「どんな良いことがあるか」を、言葉で洗い出すことから始めましょう。

難しく考える必要はありません。

PoCで参加者から挙がった声や、あなたが感じた可能性を、箇条書きでどんどん出していくのです。

このブレインストーミングの壁打ち相手として、生成AIは最高のパートナーになります。

例えば、このように話しかけてみてください。

【プロンプト例】

あなたは、企業のDX推進を支援するコンサルタントです。
M365 Copilotを導入した際に得られる「定性的な生産性向上効果」を、
様々な職種の視点から、できるだけ具体的に、最低20個リストアップしてください。

例：
- 営業部門：会議の議事録作成と要約にかかる時間が90%削減される
- マーケティング部門：SNS投稿文のアイデア出しが複数パターン瞬時に得られる

どうでしょう？

自分一人では思いつかなかったような、様々な部門での活用シーンや効果が、具体的な言葉でリストアップされたはずです。

これが、ROI算出の揺るぎない「土台」となります。

STEP2：「時間」という共通言語で効果を定量化する

定性的な効果のリストができたら、次はいよいよ「定量化」のステップです。

ここでのポイントは、全ての効果をまず「時間の削減」という一点に集約して考えることです。

「時間」は、どんな職種にも共通する、最も分かりやすい指標だからです。

先ほどAIと洗い出したリストの一つ一つに対して、「もしCopilotがなかったら、この作業にどれくらいの時間がかかっていたか？」そして「Copilotによって、どれくらいの時間が削減できるか？」を当てはめていきます。

もちろん、全ての作業を正確に計測するのは不可能です。

ここは「仮説」で構いません。

大切なのは、その仮説の「根拠」を言語化しておくことです。

例えば、「会議後の議事録作成：平均60分/回 → Copilot利用で5分/回＝ 55分の削減」という仮説を立てたとします。

その根拠として「PoC参加者へのアンケート結果」や「一般的な業界データ」などを添えるのです。

この「仮説の根拠探し」も、生成AIが得意とするところです。

【プロンプト例】

「会議の議事録作成」にかかる平均的な時間と、
生成AI（M365 Copilot）を活用した場合の削減効果に関する
一般的な調査データやレポートがあれば、いくつか提示してください。
出典元も明記してください。

こうして集めた「削減時間」に、社員の「平均時給」を掛け合わせれば、説得力のある「投資対効果（金額）」が見えてきます。

STEP3：財務部門の「ツッコミ」を先回りしたシミュレーターを設計する

さて、最後の仕上げです。

ここが最も重要です。

財務部門との議論では、必ず「その前提条件は甘くないか？」「もし利用率が低かったらどうなる？」といった鋭い指摘、いわゆる「ツッコミ」が入ります。

私たちは、そのツッコミを事前に予測し、全てを吸収できる「シミュレーター」をExcelなどで作成しておくのです。

どういうことかと言うと、計算の前提となる数値を「変数」として、自由に変更できるようにしておくのです。

例えば、以下のような項目を変数として設定します。

対象従業員数
平均年収（→平均時給を算出）
Copilotの利用率（例：80%）
1日の平均会議時間（例：1.5時間）
メール作成にかける平均時間（例：1時間）
資料作成にかける平均時間（例：2時間）
各作業におけるCopilotによる時間削減率（例：30%）

これらの変数を入力するだけで、ROIが自動計算されるシートを作成します。

そして、財務部門との会議の場で、彼らの目の前でこの変数を動かしてみせるのです。

「ご指摘の通り、利用率が50%に落ち込んだ場合をシミュレーションしてみましょう。それでもROIはこれだけ見込めます」
「では、時間削減率をかなり悲観的に見て10%に設定してみます。その場合はこうなります」

このように、様々なシナリオをリアルタイムで提示することで、一方的な「提案」は、建設的な「議論」へと変わります。

あなたはもう、彼らの質問に怯える必要はありません。

なぜなら、全ての答えをこのシミュレーターが示してくれるからです。

このシミュレーターの設計についても、生成AIに相談してみましょう。

【プロンプト例】

M365 Copilot導入のROIを算出するためのExcelシミュレーターを作成したい。
財務部門を説得するために、どのような項目（変数）を設定し、
どのような計算式を組めば、客観的で説得力のあるシミュレーターになりますか？
シートの構成案をテーブル形式で提案してください。

これで、財務部門という最難関の壁を突破するための、強力な武器が手に入りました。

【生成AI活用術②：対・IT部門】協力体制を築く！「未来の運用設計図」を共同で描くアプローチ

「これはDX推進部が主導する『攻めのIT投資』です。」

「我々の限られた『守りのIT運用』の予算と人員は割けません」

IT部門からこう言われてしまうと、まるで彼らがプロジェクトの障壁であるかのように感じてしまいますよね。

しかし、少しだけ彼らの立場になって考えてみてほしいのです。

IT部門の使命は、会社のITインフラを安定稼働させること。

新しいツールが導入されれば、ライセンス管理、セキュリティ設定、ユーザーからの問い合わせ対応、トラブルシューティング…と、彼らの「守るべき領域」と「日々の業務」は確実に増えるのです。

彼らが懸念しているのは、予算の問題だけではありません。

「導入後の運用は誰が、どう責任を持つのか？」

その全体像が見えないことへの、当然の不安なのです。

だからこそ、私たちは彼らを「説得」するのではなく、「協力者」として巻き込むアプローチが必要です。

そのための最強のツールが、またしても生成AIなのです。

さあ、IT部門が「これなら一緒にやれる」と安心してプロジェクトに参加してくれるような、「未来の運用設計図」をAIと共に描いていきましょう。

STEP1：IT部門の「見えない不安」をAIと徹底的に言語化する

まずやるべきことは、IT部門が抱えているであろう、漠然とした不安や懸念を、具体的な「課題リスト」として全て洗い出すことです。

あなた一人で想像するのには限界があります。

そこで、生成AIにIT部門の“中の人”になりきってもらいましょう。

【プロンプト例】

あなたは、従業員1000名規模の企業のIT部門のマネージャーです。
DX推進部門が、全社にM365 Copilotを導入したいと提案してきました。
この提案に対して、運用管理やセキュリティの観点から、
あなたが懸念するであろう事項を、具体的かつ網羅的にリストアップしてください。

例：
- ライセンスの割り当てや棚卸しの運用フローが未定
- Copilot経由での情報漏洩リスクに対する具体的な対策が不明

どうでしょうか。

ライセンス管理の煩雑さ、セキュリティポリシーの更新、ヘルプデスクへの問い合わせ急増、利用状況のモニタリング方法など、現場目線のリアルな懸念が次々とリストアップされたはずです。

これが、私たちがIT部門と対話するための「共通言語」になります。

STEP2：AIと一緒に「未来の運用フロー」を設計する

懸念事項が洗い出せたら、次はその一つひとつに対する「解決策（未来の運用フロー）」をAIと一緒に考えていきます。

ここでのポイントは、完璧なものを目指す必要はない、ということです。

あくまでIT部門とのディスカッションの「たたき台」を作るのが目的です。

例えば、先ほど洗い出した「ライセンス管理」という課題に対して、こんな風にAIに問いかけてみてください。

【プロンプト例】

M365 Copilotのライセンス管理について、
以下の項目を含む運用フロー案を提案してください。
- 新規利用者の申請フロー
- 利用停止時のライセンス回収フロー
- 定期的なライセンスの棚卸し方法
- 責任部署（DX推進部／IT部門／各事業部）の役割分担案（RACIチャート形式）

生成AIは、一般的なベストプラクティスに基づいた、かなり具体的な運用フロー案や、責任分界点を明確にするためのRACIチャート（誰が実行責任者で、誰が承認者かなどを示した表）まで作ってくれるでしょう。

他の懸念事項についても同様に、「セキュリティポリシーのチェックリスト案」「ヘルプデスク向けの想定FAQ集」など、具体的な解決策のたたき台をAIと共創していきます。

STEP3：「共同設計書」を手に、IT部門の扉を叩く

さて、最後のステップです。

AIと作成した「課題リスト」と「未来の運用フロー案」を一つのドキュメントにまとめましょう。

これが、IT部門との対話の質を劇的に変える「共同設計書」のたたき台となります。

そして、この資料を持って、IT部門のキーマンにこう切り出すのです。

「Copilotの全社展開にあたり、IT部門の皆様にご負担をおかけしてしまう点の洗い出しと、その対策案について、私たちの部署で分かる範囲でまとめてみました。」

「ですが、専門的な知見が足りず、不十分な点ばかりです。」

「つきましては、ぜひ皆様のプロの視点から、このたたき台をレビューいただき、より良い『運用設計』を一緒に作らせていただけないでしょうか？」

この瞬間、あなたは単なる「お願いする人」から、「共に未来を創るパートナー」へと変わります。

IT部門は、自分たちの懸念が理解され、尊重されていると感じるでしょう。

そして、具体的な「たたき台」があることで、議論は「やるか、やらないか」という不毛な対立から、「どうすれば、もっとうまくやれるか」という建設的な協業へとシフトしていくはずです。

【生成AI活用術③：対・事業部門】不公平感を払拭！

部門別「メリットの可視化」と「コスト按分モデル」の作り方

「便利になるのは分かるけど、なぜ我々の予算で？」

「全社員が同じように使うわけでもないのに、不公平じゃないか？」

各事業部門から聞こえてくる、こうした声

これは、Copilot導入プロジェクトが直面する、最大の難所の一つかもしれません。

無理もありません。

彼らにとって、Copilotはまだ「DX推進部が進めている、よく分からない新しいツール」

そのために、自分たちの限られた予算が削られるとなれば、反発が起きるのは当然のことです。

この状況を打開する鍵は、「他人事」を「自分事」に変えること。

そして、「不公平感」を「納得感」に変える緻密なロジックです。

大丈夫。

ここでも、生成AIがあなたの強力な交渉パートナーとなってくれます。

さあ、各部門が「ぜひ、うちの予算で導入してくれ！。
」と前のめりになるような、魔法の資料を一緒に作り上げましょう。

STEP1：部門ごとの「お悩み」と「特効薬」をAIと発見する

まずは、各事業部門が「自分たちのためのツールだ」と認識してくれるための、決定的な証拠を集めます。

その証拠とは、「Copilotが、自分たちの部署が抱える、あの面倒な業務や悩みを、ピンポイントで解決してくれる」という具体的なイメージです。

この「部門別の課題」と「Copilotという特効薬」を結びつける作業を、生成AIと行いましょう。

【プロンプト例】

あなたは、企業の営業部門のマネージャーです。
。
日々の業務において、
あなたのチームメンバーが時間を取られている非効率な作業や、
もっと改善したいと考えている課題を、
具体的かつリアルに10個リストアップしてください。

例：
- 毎週の営業会議の議事録作成に、若手が2時間も費やしている
- 顧客ごとにカスタマイズした提案書の作成が追いつかない

次に、洗い出した課題に対して、Copilotがどう効くのかをAIに尋ねます。

【プロンプト例】

先ほどリストアップした営業部門の10個の課題それぞれに対して、
M365 Copilotがどのように解決できるのか、
具体的な活用方法（ユースケース）をセットで提案してください。

これを、営業部門だけでなく、マーケティング部門、人事部門、経理部門…と、主要な部門ごとに行っていきます。

するとどうでしょう。
「全社向けの漠然とした効率化ツール」だったCopilotが、各部門の課題に寄り添う「オーダーメイドの解決策」へと姿を変えるはずです。

STEP2：AIに部門別の「サクセスストーリー」を描かせる

具体的なユースケースのリストが完成したら、次の一手は「ロジック」から「感情」へのアプローチです。

人は、正しい理屈だけでは動きません。

「ああ、それ、すごく分かる！。」
「そうなったら最高だ！。」
という共感が、心を動かすのです。

そこで、STEP1で作成したユースケースを基に、各部門の社員が主人公となる「サクセスストーリー」を生成AIに描いてもらいましょう。

【プロンプト例】

あなたはプロのシナリオライターです。
以下の設定で、読者が「これは自分の物語だ」と強く共感できるような、
感動的なショートストーリーを作成してください。

- **主人公:** 営業部の3年目、Aさん
- **悩み:** 毎日の報告書作成や提案書の準備に追われ、
お客様と向き合う時間が十分に取れないことに焦りを感じている。
- **解決策:** M365 Copilotを使い、会議の要約を瞬時に作成し、
過去のデータから最適な提案書のドラフトを生成することで、
事務作業の時間を80%削減する。
- **結末:** 創出できた時間で顧客訪問の回数を増やし、
丁寧なヒアリングを重ねた結果、過去最大級の大型契約を獲得。
チームのヒーローとなる。

このストーリーを読んだ営業部長は、どう思うでしょうか？

きっと、単なる機能説明の資料を見せられるよりも、はるかに強く「Copilotは、我が社の営業部隊を強くする武器になる」と実感してくれるはずです。

STEP3：AIと共に「誰もが公平だと感じるコスト按分モデル」を設計する

部門別のメリットが「自分事」として伝わったところで、いよいよ本丸のコスト按分です。

ここで絶対にやってはいけないのが、単純な「従業員数での頭割り」を一方的に提示することです。

これでは、せっかく醸成した共感が、一瞬で「不公平感」に逆戻りしてしまいます。
大切なのは、複数の「選択肢」を用意し、彼ら自身に選んでもらうというプロセスです。

ここでも、生成AIに客観的な視点で複数のモデルを設計してもらいましょう

【プロンプト例】

あなたは経営コンサルタントです。
M365 Copilotの全社導入における、事業部門間のコスト按分モデルについて、
公平性と納得感を両立できるような選択肢を3つ提案してください。

それぞれのモデルの名称、計算ロジック、メリット、そして想定されるデメリットを、
比較検討しやすいようにテーブル形式でまとめてください。

生成AIは、おそらく以下のようなモデルを提案してくれるでしょう。

基本料＋成果報酬モデル: 全部門が最低限の基本料を負担し、残りは各部門で削減できた工数（ROI）に応じて負担額が変わるモデル
ライセンス種別モデル: 全員一律のライセンスではなく、利用頻度や業務内容に応じて複数ティアのライセンスを（仮想的に）設定し、それに応じて負担額を変えるモデル
全社共通経費＋部門別経費モデル: 全社員が利用する基本機能分は全社共通のIT経費で賄い、各部門固有の高度な活用（例：専門的なデータ分析など）にかかる費用は、当該部門が負担するモデル

これらの具体的な選択肢をたたき台として提示することで、議論は「負担するか、しないか」ではなく、「どの負担方法が、我々にとって最も合理的か」という、建設的なステージへと移行します。

あなたはもう、各部門の反発に頭を悩ませる調整役ではありません。

AIというパートナーと共に、全部門の成功をデザインする、戦略的なナビゲーターなのです。

【生成AI活用術④：対・経営層】懸念を自信に変える！「スモールスタートからの全社展開ロードマップ」策定術

PoCの成果報告で、経営層から「素晴らしい効果だ」と評価された時の、あの高揚感。

しかし、その直後に「しかし、この年間コストは莫大だな…」「本当に全社員に必要なのか？」という慎重な言葉が続き、一気に現実に引き戻される感覚。

その気持ち、よく分かります。

経営層は、会社全体の未来に責任を負っています。

彼らの慎重さは、プロジェクトへの否定ではなく、むしろ「失敗させたくない」という思いの表れなのです。

だからこそ、私たちが提示すべきは、「一か八かの大きな賭け」ではなく、「着実に勝利を積み重ねていく、緻密な投資戦略」です。

大丈夫。

そのためのロードマップも、生成AIという最高の戦略パートナーと共に描くことができます。

さあ、経営層の「懸念」を「確信」に変える、未来への設計図を作り始めましょう。

STEP1：AIと「次の勝利条件（KPI）」を具体的に設定する

経営層が最も知りたいのは、「次の小さな一歩（スモールスタート）が成功したと、何をもって判断できるのか？」という明確な基準です。

ここで「利用率の向上」や「満足度アンケート」といった曖昧なゴールを設定してはいけません。

彼らが納得するのは、事業の成長に直結する、具体的で測定可能な指標（KPI）だけです。

この「勝利条件」の設定にこそ、生成AIを活用しましょう。

【プロンプト例】

あなたは、データ分析を専門とする経営コンサルタントです。

M365 Copilotを、まずは「営業部門」にスモールスタートで導入します。

このスモールスタートの成否を判断するためのKPI（重要業績評価指標）を、
SMART原則（具体的、測定可能、達成可能、関連性、期限）に基づいて5つ提案してください。

財務的な成果と、業務プロセス上の成果の両方の観点から挙げてください。

どうでしょう？

AIは、単なる「効率化」という言葉ではなく、

新規顧客への提案書作成時間：平均30%削減（3ヶ月後）
既存顧客へのフォローアップメール送信数：20%増加（3ヶ月後）
若手営業社員の会議議事録作成・報告業務にかかる時間：週あたり平均2時間削減

といった、経営層が「なるほど、それなら投資価値がある」と判断できる、具体的なKPIを提案してくれたはずです。

この「勝利条件」を最初に共有することで、経営層は安心して次のステップへのGOサインを出すことができるのです。

STEP2：AIに「拡大シナリオの選択肢」を描かせ、意思決定を促す

スモールスタートの次に来るのが、全社展開へのロードマップです。

ここで重要なのは、「この道しかありません」と一本道を提示するのではなく、複数の「戦略的な選択肢」を提示し、経営者自身に選んでもらうというアプローチです。

人は、押し付けられた計画よりも、自ら選んだ計画に強くコミットします。

この「複数の未来」をシミュレーションさせるのも、AIの得意技です。

【プロンプト例】

M365 Copilotのスモールスタート成功後、
全社に展開するためのロードマップの選択肢を3つ提案してください。

それぞれのシナリオの名称、展開アプローチ、メリット、デメリット、
そしてどのような企業に適しているかを、比較検討しやすいテーブル形式でまとめてください。

生成AIは、おそらく以下のような戦略オプションを提示してくれるでしょう。

部門別ドミノ展開モデル: 営業部の成功モデルを、マーケティング部、人事部…と、業務内容が近い部門へ横展開していく確実性の高いモデル。
ユースケース別浸透モデル: 「議事録作成」「提案書作成」といった特定の業務（ユースケース）を全社標準化し、成功体験を水平に広げていくモデル。
ハイパフォーマー先行モデル: まずは各部門のエース社員や、デジタル活用意欲の高い社員にライセンスを付与し、彼らが「成功の伝道師」となって社内に影響を広げていくモデル。

これらの選択肢を手に、「社長なら、どのシナリオで我が社の未来をデザインしますか？」と問いかけるのです

この瞬間、あなたは「予算を要求する担当者」から、「経営者の意思決定を支える戦略パートナー」へと進化します。

STEP3：AIに「投資判断レポート」の骨子を瞬時に作成させる

最後に、これまでAIと考えてきた「勝利条件（KPI）」と「拡大シナリオ」を、経営層が一読すれば全てを理解できる、説得力のあるレポートにまとめ上げます。

構成を考え、言葉を選び、図表を作る…

この最も時間のかかる作業こそ、生成AIに任せてしまいましょう。

【プロンプト例】

あなたは、CEOへの報告資料作成を得意とするエグゼクティブアシスタントです。

以下の要素を含む、「M365 Copilot 段階的導入に関する投資判断レポート」の骨子
（目次と各項目で記載すべき内容の要約）を作成してください。

- エグゼクティブサマリー
- PoCの成果と明らかになった課題
- スモールスタート計画（対象部門、期間、KPI）
- 全社展開ロードマップの選択肢（シナリオA, B, C）
- 各フェーズにおける投資額と予測ROI
- リスク分析と対応策
- 提言と次のアクション

もはや、あなたはゼロから資料を作る必要はありません。

AIが生成したプロフェッショナルな骨子に、PoCで得られた具体的なデータや社員の声を肉付けしていくだけでいいのです。

これで、経営層が抱いていた「漠然としたコストへの不安」は、「コントロール可能で、リターンの期待できる戦略的投資」への確信へと変わっていくはずです。

もう「調整役」で疲弊しない！

TOC×生成AIで描く、全社を巻き込むプロジェクト推進の極意

これまでの章で、私たちは生成AIという強力なパートナーと共に、財務、IT、事業部門、そして経営層という、それぞれに異なる言語と思考を持つ部門との「対話の武器」を手に入れてきましたね。

しかし、あなたはまだ、心のどこかでこう感じていませんか？

「結局、自分が各部門の間を走り回って、なんとか体裁を整えているだけなのではないか？」

「このプロジェクトが終わったら、また次のプロジェクトで同じような『板挟み』に苦しむことになるのではないか？」

その感覚は、とても正しいです。

なぜなら、これまでのアプローチは、いわば「対症療法」だったからです。

あなたが一人で抱え込んできた「板挟み」のストレスから本当に解放されるためには、問題の根本原因、つまり「部門間の対立構造」そのものにメスを入れる必要があります。

ご安心ください。

ここでお話しするのが、あなたの働き方を、そして会社を動かすリーダーシップの形を根本から変える、最後のピースです。

私の専門分野である「TOC（制約理論）」の考え方と生成AIを組み合わせることで、あなたはもう「調整役」として疲弊する必要はなくなります。

全社のベクトルを一つに束ね、プロジェクトを成功へと導く「真の変革リーダー」になるための、究極の思考法をここでお伝えします。

なぜ私たちは「対立」するのか？

TOCの視点で解き明かす

TOC（Theory of Constraints：制約理論）を一言でいうと、「物事の成果を最も大きく左右している、たった一つのボトルネック（制約）を見つけ出し、そこに集中投資することで、最小の力で最大の結果を出す」という考え方です。

今回のプロジェクトにおける、最大のボトルネックは一体何でしょうか？

予算額でしょうか？

IT部門のリソースでしょうか？

いいえ、違います。

最大のボトルネックは、「Copilotを導入すべきだ」というあなたと、「コスト増や運用負荷は避けたい」という各部門との間に存在する「対立」そのものなのです。

TOCには、この「対立」を解消するための「クラウド（対立解消図）」という、非常に強力な思考ツールがあります。

これは、一見対立しているように見える両者の主張の裏には、実は「共通の目的」が隠されていることを見つけ出し、両者がWin-Winになる解決策（インジェクション）を導き出す手法です。

そして、この複雑な人間関係や組織の力学が絡み合う「クラウド」の作成を、生成AIが劇的にサポートしてくれる時代になったのです。

さあ、具体的なステップを見ていきましょう。

STEP1：AIと共に「共通の目的」を発見する

財務、IT、事業部門…。

彼らは皆、バラバラの方向を向いているように見えます。

しかし、本当にそうでしょうか？

会社の成長を願わない社員は一人もいません。

まずは、この対立の根源にある、全員が納得できる「共通の目的」を定義することから始めます。

こんな風に、AIに問いかけてみてください。

【プロンプト例】

あなたは、様々な企業の変革を見てきたベテランの経営コンサルタントです。


現在、当社ではM365 Copilotの全社展開を巡り、
DX推進部と、財務・IT・事業部門が対立しています。


一見、利害が対立しているように見える彼らが、
本来企業人として共有しているはずの「より上位の共通目的」とは何か、
CEOの視点で3つ、力強く定義してください。

AIは、おそらく「持続的な事業成長の実現」「業界における競争優位性の確立」「従業員エンゲージメントの向上と優秀な人材の確保」といった、誰もが「その通りだ」と頷くような、普遍的で重要な目的を提示してくれるでしょう。

これが、対立する全部門を同じテーブルに着かせるための、揺るぎない「北極星」となります。

STEP2：AIに各部門の「真の欲求」を翻訳させる

次に、各部門の表面的な「要求（反対意見）」の裏に隠された、彼らが本当に守りたい「欲求（必要条件）」をAIに分析・翻訳させます。

人は、自分の欲求が脅かされると感じた時に、反対という行動に出るからです。

財務部門の要求: 「ROIを具体的に数値で示せ！」

- →裏にある欲求: 「無駄な投資を避け、会社の財務健全性を守りたい」

IT部門の要求: 「運用体制と予算を明確にしろ！」

- →裏にある欲求: 「システムの安定稼働を維持し、セキュリティリスクから会社を守りたい」

事業部門の要求: 「我々の予算を削るな！」

- →裏にある欲求: 「与えられたリソースの中で、事業目標を確実に達成したい」

この「翻訳作業」を、生成AIに客観的な視点で行ってもらいましょう。

【プロンプト例】

あなたは、組織心理学の専門家です。


IT部門がCopilot導入に際して「運用負荷の増大」を懸念し、協力に消極的です。


この表面的な態度の裏にある、彼らが組織の一員として死守したいと考えている「根源的な欲求」や「守るべき価値観」を分析し、言語化してください。

この分析によって、あなたは彼らが「敵」ではなく、それぞれの持ち場で会社の未来を真剣に考えている「仲間」なのだと、心から理解できるようになります。

STEP3：対立構造を可視化し、AIと「Win-Winの解決策」を共創する

「共通の目的」と、各部門の「真の欲求」が見えたら、最後はそれらを両立させる画期的な解決策（インジェクション）を導き出すだけです。

驚くことに、「会社の成長（共通の目的）」のためには、「財務の健全性（財務の欲求）」も「システムの安定（ITの欲求）」も「事業目標の達成（事業部門の欲求）」も、全てが必要不可欠な条件であることが分かります。

つまり、彼らの欲求は本来、対立するものではなかったのです。

この構造を可視化した上で、生成AIにブレインストーミングの壁打ち相手になってもらいましょう。

【プロンプト例】

TOCの思考プロセスに基づき、
以下の課題を解決するための革新的なアイデア（インジェクション）を、
立場や前提条件に囚われずにブレインストーミングしてください。


- **共通の目的:** 会社の競争力を強化し、持続的に成長する。

- **対立する行動:**


- A: 全社にCopilotを導入し、生産性を飛躍的に向上させたい。



- B: 巨額の追加コストと運用負荷を避け、現状の安定を維持したい。


- **それぞれの行動の背景にある欲求:**


- Aの欲求: 全社員の創造性を解放し、イノベーションを加速させたい。



- Bの欲求: 会社の財務基盤とITインフラの安定性を守りたい。

この問いかけに対し、AIはこれまでの章で私たちが作り上げてきた「ROIシミュレーター」や「スモールスタートからのロードマップ」、「メリットに応じたコスト按分モデル」といったアイデア、あるいはそれらを組み合わせた、さらに斬新な解決策を提示してくれるかもしれません。

このTOCと生成AIを組み合わせたアプローチこそが、あなたを日々の調整業務から解放し、組織全体の対立を解消して未来へと導く、新しい時代のリーダーシップなのです。

CRAZYBONE